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2006年11月28日 (火)

アザラシと人間の問題

HPの読者で「カナダのアザラシ漁に反対をされている方」からメールが来て、「アザラシ・ウォッチングで人間が赤ちゃんに触れていくことの生態への影響」を心配される内容でした。大事な問題だと思いますので、返答をこちらにもアップしておきます。

最初に誤解されないようにお願いしたいのが、私は「カナダのアザラシ漁への反対運動」を否定している訳ではありません。反対の団体もあれば、私のように消極的な肯定もいれば、漁をしたいという漁師もいるわけです。そのような意見を色々尊重しあいながら、科学的な見地を加え、「共生への道」を模索していくことが求められていると思っており、その内容は時代や状況によって、常に変化しつつあるものであると思います。環境問題は試行錯誤しながらよりよい方向を模索していくことが大事であって、一つの考え方が「特効薬」になるようなものではないと思っています。

ポイントを絞って答えていきます

1)現在のカナダのアザラシ漁に対して
 私は反対の立場を取っておりません。捕獲制限数の決定に関しては、「ちょっと多すぎではないか、急に増やし過ぎではないか」とは個人的に思っていますが、科学的な個体数の調査を行い、生態系への考慮も十分に行われての決定と考えています。生態系への考慮を行いアザラシの数が、他の構成生物に比べ、異様に増え続けていることへ、なんらかの対応をとらないと行けないという考えが根底にあると思います。現在は餌の魚に比べてアザラシの生息数の増加が顕著であると認識しております。自分が毎年アザラシの群れをみても個体数は増え続けているという印象をもっています。この点で数が漁によって激減していた80年代の漁と異なります。

2)アザラシ・ウォッチングが与える影響について
 もちろんウォッチングが与える影響はあります。しかし、一部で言われているような、人間が触れただけで、アザラシの母親が子どもを見失うというようなことは、私が知る限りありません。母親の嗅覚力や子への思いは非常に強いものがあります。
 ウォッチングで頻繁に人間が訪れる影響ですが、私もその点が心配で、人間たちに赤ちゃんが囲まれて、しばらく母親が消えていた個体を、流氷に泊まったときなどに、しばらく離れて遠くから観察していたことがあるのですが、ヘリコプターが帰った後の、夕方にはきちんと戻って来ている例を何度も確認しています。
 これは流氷で実際に見る赤ちゃんの死体の数が、全体数に比べて非常に少ないことからもいえると思います。流氷上では死体はそのまま残りますので、すぐに見つけることができます。
 といってウォッチングが生態に影響を与えないわけではありません。影響を最小限にするための努力を、それぞれの主催者が模索していく必要はあると思います。かつてはツアーの効率優先のために、同じ場所に連続して何度も往復するといった時期があったのですが、現在は日によって着陸場所を変えて降りるなどの対応が取られています。
 現在カナダのアザラシ保護条例でアザラシの赤ちゃんには、「触ってもいいが、抱き上げて移動させてはいけない」と定められております。

3)アザラシ・ウォッチングが発生した経緯
 マドレーヌ島のアザラシ・ウォッチングは、当初は動物保護団体IFAWのプロモーションの一環として始まりました。IFAWが女優や著名人、ジャーナリストなどをヘリコプターに乗せて、アザラシの赤ちゃんのいる流氷の元へ連れて行き、赤ちゃんを抱いて反対運動のための写真を撮りました。そのようなツアーがIFAWの「漁から観光へ」との収入転換の提案で、一般観光客へと広がりました。
 ところがウォッチングであがった収益は島の住民にまわらずに、ほとんどが保護団体に行ってしまう構図に疑問を持った地元の人が、このようなツアーは自分たちで行わないといけないと考え、作りだしたのがChateau Madelinot のアザラシ・ウォッチングです。私はエコツーリズムは地元の人主導でとの考えを前から持っていたため、この動きを応援し、日本への紹介を行いました。
 現在アザラシ・ウォッチングはIFAWの流れをくむ旅行会社のNatural HabitatとCheatau Madelinot という地元のホテルが始めたものの2つがあります。このChateau Madelinot のツアーは「アザラシ漁師をガイドに雇用しているからボイコットすべき」とIFAWが抗議したことがあります。私はこの考えは「漁から観光へ」との原点を鑑みればおかしいと思っています。むしろよりアザラシ漁師を雇用すべきと思っています。

 「漁から観光へ」という経緯があるために発生した、アザラシ・ウォッチングを応援することにより、多くの人がアザラシと人間の共生や漁の問題を考えるようになる。アザラシの生態にも興味を持つようになる、漁から観光への転換が進む。これらのことを含めれば、アザラシ・ウォッチングを生態への影響のために否定する必要はないと私は考えます。ウォッチングによって明らかに生息数に影響が現れ始めていたりした場合は別ですが、現在は個体数は増えています。
 
4)問われるべきは人間と自然との共生
 これはアザラシの赤ちゃんだけに限らないのですが、現在人間と自然との問題で問われるべきは、「共生のありかた」であって「一方的な自然保護」では解決が難しいです。これは突き詰めていけば、「人間がすでに生態系からはみだした存在になっている」という理由からです。本来生態系の構成者であった人間は、生態系を壊すことができる存在にもなってしまい、もはや構成者でなく生態系から飛び出てしまったという考え方です。私はこの考え方を生態学者から教わり、これを支持しています。
 そしてそのような状態では自然保護のみを突き詰めると、人間の自然への関与の一切の否定へとなっていきます。そして自らの存在を否定しなくてはならなくなります。人間は自然の生態系を利用しないと生きていけない寄生的な存在だからです。
 「共生」を考えることにより、人間が自然や資源の永続的な利用を考える道が開けます。この「持続的な自然資源の利用」という考えが現在の環境問題のキーワードではないかと思います。
共生がテーマである以上、たとえば今年のポール・マッカートニーさんには、アザラシのみならず、マドレーヌ島の人々との接点も持ってほしかったと、私は考えます。

5)アザラシ漁師だってアザラシの赤ちゃんを可愛いと思っている
 このことを知っていただきたいと思います。
 私は報道カメラマンの時代に日本のイルカ漁を外国の雑誌の依頼で取材したことがあるのですが、そのときに漁師が「俺たちだってイルカは可愛いんだ」と語った言葉が、ずっと耳に残っていました。同じ言葉をマドレーヌ島のアザラシ漁師からも聞きました。80年代の世界的なアザラシ漁反対の運動のなかで、マドレーヌ島の人々は「世界中でもっとも残酷な人々」とまで呼ばれました。アザラシ・ウォッチングの初期の頃に、アザラシ漁師のガイドに「俺たちだってアザラシの赤ちゃんは可愛い」と言われたことが忘れられません。
 あんな可愛い動物を殺すなんてという考えは、彼らに「可愛い」と思う感情があることを否定してしまいます。彼らがアザラシを殺すのには、「可愛い」と思わないからではない、別の理由が存在します。
子どもの頃からアザラシと身近に触れて、可愛いと思ってきた地元の漁師の子が、アザラシ漁に連れて行かれ、大人になる試練のごとく最初のこん棒を振るった思いを、聞いたことがあります。
 むしろ私は氷の上で、実に無邪気にアザラシの赤ちゃんやアザラシの親たちと、触れ合う彼らの姿を見て、自分や観光客よりも、もっともアザラシたちと自然に触れ合って親しんで来たのは、彼らだなと思います。アザラシが地球から姿を消しそうになった時に、一番悲しがるのも彼らだと思っています。
 
6)一番心配すべきは地球温暖化
 私がアザラシの流氷を訪れだしてから17年が経ちますが、この17年を通して感じるのは地球温暖化によるアザラシの生態系への影響です。私は人間が与えるアザラシへの影響という点では、現在の漁よりも、地球温暖化の方がより深刻で今後の影響が多大ではないかと考えています。

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2006年11月23日 (木)

流氷の上で使うカメラ

 体感温度で−20℃というとカメラはちゃんと動くのだろうか、どんなカメラを使う必要があるのかと、これもまた良く聞かれる。とくに写真を少しかじった人ほど、心配してメカニカル・シャッターの機種ではないといけないのか、オイルをメーカーで変えないといけないだろうかなどと心配される。
 結論から言うと、今はEOSなどのデジタルAF一眼レフそのままが一番です。
 逆に一番トラブルが多かったカメラは、値段も一番高かったライカR6でメカニカルシャッターの機種なのだけれど、モータドライブとの接点がすぐ不良になってしまった。結局手巻きで使うしかなく、非常に不便だった。Rライカを持って来たカメラマンはみな似たようなトラブルにあっていますね。
 また古いニコンのメカニカル機はフィルムをしなるように巻いていくので、良くフィルムの先端が切れる。結局メカニカル機のメリットはほとんどないままで、不便だけがしいられる。(ただし、もっと寒くなるとメカニカル機のメリットも出てきます)
 最近のAF一眼レフカメラは軽いし、省電力だし、AFなので手袋をしたままでも操作しやすい。さらにデジタルになって、フィルム交換も不要になって、いいことずくめでもある。
 アザラシ・ウォッチングに来てフィルムが足りたカメラマンはまずいないというほど、撮影は好条件なのですが、以前は大量のフィルムを持っていくだけで大変でした。今はそれが小型ハードディスクで済んでしまいます。
 超広角から超望遠まで様々なレンズを試せるのも、アザラシの魅力でもあります。
 私の場合一番使うのは100−400mmのズームレンズで特に400mmをよく使います。他に16−35、28−70のズームレンズを持っていきます。
 フィルターは基本的に使いません。日本のアマチュアカメラマンは偏光フィルターを使いすぎると常々思っているのですが、偏光フィルターは氷の色の描写が青くなりすぎると思っています。
 露出はデジタルになってからは、ヒストグラムで見るようになりましたので、問題はなくなりましたが、フィルムの場合は「白い赤ちゃんの顔をスポットで測って+1ev」というのが基本でした。あと入射メーターで測って−1というのも結構あたります。
 バッテリーだけは普段の倍ぐらいは持参してくること。できれば新品を入れてきて、さらに新品のスペアを複数用意しておく、ホカロンで暖める人もいますが、すぐに冷たくなってしまいます。可燃性のカイロを使うのがいいのですが、飛行機のチェックに引っかかります。一番効率いいのはケーブルでバッテリーを引っ張って、体温で暖める方法です。
 あと結構ある故障が、結露によるトラブルです。寒いところから暖かい室内に入る場合は、徐々に温度を上げるように、密封できる鞄や袋に入れて、少しずつ開けていきます。プロのカメラマンでも寒冷地での経験が少ない人は一度大丈夫だったからと、このあたりが結構雑で、私なんかついつい心配してしまうのですが、結露による故障はしばらく経ってから発生することがあります。しかもなぜか時々調子が悪いといったタチの悪い故障になることが多いので要注意です。
 それと流氷の上についついカメラをおかないこと。塩分が多い氷なので塩が接点について接点不良になるケースもよくあります。

 いい写真を撮る秘訣はアザラシのようになることです。
 いっぱい食べて、いっぱい寝て、体型をアザラシのようにし、アザラシの気持ちになって行動すること。まあ半分冗談ですが、アザラシの視線になってみることは結構大事です。

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2006年11月21日 (火)

子どもとアザラシ・ウォッチング

こどもをアザラシウォッチングに連れて行っても大丈夫か良く聞かれます。

Ohara_3
ちょうど我が家のこの写真が参考になると思うのですが、下から1歳、5歳、7歳です(当時)。
1歳の子は全然訳が分からないままに寒いところに連れてこられたといった感じですが、5歳、7歳になると大喜びです。何が楽しいかというと、アザラシの赤ちゃんを見るのも面白いのですが、広大な流氷にいることそれ自体が面白いようです。
考えてみれば、大人は珍しい「白いアザラシの赤ちゃん」というインプットされた情報が影響して、アザラシの赤ちゃんばかりに目が行くのですが、360度が水平線の広大な広さの上に立つって非常に貴重なことなのですね。そしてよりダイナミックな自然でもあります。子どもの素直な視線はすぐにこれに興味を持ちます。
上の子も下の子も、5、6歳の頃は流氷のかけらで積み木遊びをしたり、流氷をなめたり、流氷の上をすべって遊んでいました。
子ども用の防寒具は基本的に自前で用意する必要があります。それにホテルが用意しているライフジャケットをつけて行くことになります。スキーウェアでもいいのですが、日本で売っている子供用のスキーウェアは安い代わりに防水・防風性能があまり良くありません。寝転がるとすぐにびしょびしょになってしまったりするものも多いです。防水スプレーをさらに念入りにかけるなどしておいた方がいいでしょう。
その点カナダで売られているものは、もう少し良いものがあります。ゴアテックスやそれと同等の防水・防風のオーバーズボンなどもありますので、下だけでもそのような良いものがあると安心です。
どうせトロントやモントリオールで一泊しなくてはならないのだから、それをもう一泊増やして、町で買い物してくるというのも悪くありません。あとは日本からMEC(Mountain Equipment Coop)やREIの通販でそろえるのも一手です。
小原が良く行くのはトロントのMECと道を渡った反対側のEurope Bound という登山用品店です。先に書いたゴアテックスの靴下や雪用の長靴なんか、日本では手に入らない良品がちょうどバーゲンをやっている時期にあたるので、ついつい寄っていってしまいます。ただしシーズン最後なのでサイズがなかなかなかったりもします。帰路だと春物に変わっていることも多いです。
Holiday Inn on King というホテルがこれらの店にちょうど近いし、ネットで予約できるので(中心街なのでやや高めのホテルです)、良く利用します。防寒具以外の登山用品も面白いのでついつい寄ってしまいます。

  

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2006年11月17日 (金)

防寒具

 アザラシの赤ちゃんを見に行くのにどのくらいの防寒具を用意したらいいのかと良く聞かれる。
 私が最初にアザラシを撮りだした1990年頃に比べたら防寒具はかなり進歩している。特にフリースの登場はありがたかった。それまでは毛のセーターを使っていたのだが、これがスーツケース内で場所をとるし、洗うのも簡単じゃないし、それに乾かない。それがフリースが登場してから、重量は軽くなり、洗濯は簡単で、自然乾燥でも一晩で乾くようになり、画期的に便利になった。
 一番外側に着るムスタングスーツという救命具をかねた防寒具は、防水性が高い素材のため通気性はない。だから私のような太って汗っかきの人間には、この簡単に洗えるというのは大助かりだ。  最近はもっと軽くなったインナーダウンというものも登場していて欲しいなあと思ったりしているのだが、フリースほど簡単には洗えないのでちょっと躊躇したままになっている。
  
 私がアザラシの流氷に行くときの格好ですが、
上: 中から順に  速乾性の長袖の防寒下着、 速乾性素材のシャツ、 フリース
下: 速乾性の下着、 速乾性素材の防寒下着、フリースのズボン
靴下 :薄手の速乾性のもの、フリースの靴下、ゴアテックスの靴下
手袋 :非常に薄手のもの、フリースのもの、 防水手袋
顔 :フリース素材の覆面マスク

こんな感じです。できるだけ速乾性素材を着るようにしています。それは汗が乾くのが早いのと、現地での洗濯
や乾燥が楽なこと、万が一水に落ちても足ぐらいだったら、そのまま体温で乾いて寒くない。
ただこれはプロの服装なので、初めて一度だけ来る人がここまでそろえる必要はないですよ。
持っている服の一番暖かいものを重ね着してくれば大丈夫です。
北海道にスキーに行くぐらいを想定してください。

防寒具の中で一番の効果があると思っているのが「ゴアテックスの靴下」です。ROCKEYという会社のものをカナダのMEC(Mountain Equipment Coop) で購入してから、その効果に驚いています。冷えて一番辛いのが足先なのですが、ゴアテックスは防水性、保温性、通気性に優れているのでびっくりするくらいの効果です。
なんだかんだ長靴の入り口から雪が入り込んだり、玄関などで溶けた雪を踏んだり、長靴のインナーが乾いてなかったりなどで発生した水分で靴下が濡れることを完全に防いでくれます。

私ぐらい頻繁に流氷に行っていて、歩き回る量も多いと、なんどか流氷が割れて落ちたことがあるのですが、この靴下を履いていれば中の靴下は濡れないので、たいていの場合は長靴の水を出したらそのまま撮影を継続しています。下半身も速乾性素材とムスタングスーツなら、不思議と寒くありません。靴下が濡れた場合はとてもこんなことはできませんでした。

寒いところに暮らす人には絶対のおすすめ品です。モンベルもカヌー用品として同様の製品を作っていましたが、ちょっとサイズが長いので、普段使いにはROCKEYのほうがいいかな、残念ながら日本であまり売っているところがありません。MECのネット通販なら可能かな。

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2006年11月11日 (土)

うみへのながいたび

  毎年この時期になると、小学生1年生の国語の教科書(教育出版「こくご1下」)に掲載されている、「うみへのながいたび」に関する話を、各地の小学校から求められる。ちょうど私が暮らしている名古屋市でもこの教科書を採用している関係で、今年も20校ほどの小学校からスライドショーの依頼が来ている。11月はまだ少しだけど、12月になるとほぼ毎日どこかの小学校に行くことになる。
 最初は近所の小学校で始めたのが、口コミで近隣の学校に広まり、さらに担当される先生方が転勤するたびにその学校でもと広まっていった。
 小学1年生の反応って、ほんと素直で、こちらも参考になるんですね。
 また質問も面白くて、こちらも勉強になる。
 シロクマの母子の話なんだけれど、「おばあちゃんは?」という質問もあったなあ。この子おばあちゃんが好きなんだなあと微笑ましかった。あと父親が一緒に暮らさないことを、「シロクマは家族を作らない動物です」と説明すると、「ホッキョクキツネはどうですか?」と鋭い質問が出る。同じところに暮らしているのですが、こちらは作るんですよね。
  最後に撮影できるモコモコの防寒具と長靴を出して、生徒に着せてみせるのですが、みんなこれを一番喜んでくれますね。
 

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2006年11月 1日 (水)

シャトーマドリノの位置

アザラシ・ウォッチングの拠点になるシャトーマドリノの位置をGoogle Map で示しておきました。コの字(逆向き)型の建物がホテルです。倍率を返ると位置がわかるかと思います。

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