天安門事件と相生山のホタル

20年前私は天安門広場にいました。学生たちと最後に広場を出てきた一人です。私が撮ったこの写真は米国のLIFEの年末総集号に使われ、その後"The Best of LIFE"に選ばれました。ちなみに1989年のピューリツア賞を撮ったのは、LIFEで私の写真が見開きで使われた横に小さく使われた写真でした。LIFEは私の写真の方を評価していたのです。
その後私は動物写真家へと転身します。その理由の1つに天安門事件で自分がジャーナリストとして伝えきれなかったことがあまりにも多かったことです。私は広場で死体を1つも見ていません。広場での怪我人の多くは跳弾です。銃口は高い位置にあったスピーカーや、地面に向けられていました。
なによりこの写真は戦車を止めている写真ではありません。学生リーダーたちが、学生が戦車に向かうのを防いでいる写真なのです。しかし、LIFEでもその事は書かれませんでした。私とやりとりしたLIFEの編集者は「あなたが事実を言っているのを信じている、しかし私たちの会社は、その場にいなかったTIMEの北京支局長の取材した話を優先しないといけない会社なのです」そのように語りました。
私は非常に大きなものを伝えることができませんでした。それは「この学生運動が何だったか?」を示す、最後の瞬間を説明できなかったのです。私は彼らが手を繋いだ理由を良く判っています。彼らは最後まで「非暴力、民主主義、新聞自由」を貫きたかったのです。最後の最後まで自分たちのスローガンに忠実であろうと、興奮した学生が戦車に向かって行くのを防いでいたのです。
私はこれを伝えることができなかった。
私はこの日の1、2日前に中国の警察に勾留されそうになりました。広場の学生たちがリンチのように殴りあっているのを撮影した際に、学生たちに止められ、すかさず手に「新聞自由」と書いたところ。学生たちは「この男は公安のスパイだ、突き出しに行くから、お前はそれも取材しろ」と言われ、付いて行きました。最初は学生たちが公安に文句をいっているだけだったのですが、いきなり数十人の警察官の応援が来て、私は両腕を抱えられ、首からぶら下げていた2台のカメラのうちの1台のカメラを奪い取られました。皮のストラップが切れたのです。もう一台は切れなかったので首につながっていました。残ったその古いライカM3で撮ったのがこの写真です。
学生たちと私は逆に拘束されそうになりました。ところが、その様子が天安門広場に伝えられ、大勢の学生たちが私の救出にやってきました。そして体育大学の学生たちが私を力ずくで外に引きづり出しました。事件の1日前か2日前のことです。私は学生たちに助けられたのです。
その学生たちの運動の最後の姿。この手を繋いだ瞬間。
それを伝えきれなかった私。
以後天安門事件は中国政府の弾圧行動としてのみ語られ、学生たちがあの運動で何を求めていたかは語られなくなりました。
今日すばらしい本が米国でできました。同じような伝えきれない悔しさを20年引きずった、ジャーナリストの作です。
私の写真も3枚使われています。まだ出版社は見つかっていないとのこと。版元を探すのを手伝いたいと思っています。それが今になって私ができることです。
相生山のホタルと天安門事件、正しい事実を伝えること。その責務を感じています。もう2度と伝えきれない悔しさを残したくないです。
相生山のホタルの写真が現在発売中の週刊文春のモノクログラビアに載っています。
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コメント
■中国・天安門事件から20年‐警備体制高まる―一日も速く、民主化、政治経済の分離、法治国家化を!!
こんにちは。天安門事件から、20年たちましたが、あの頃の政権が実質上何も変わらず、運営されているということ自体が信じられません。やはり、中国の現指導者はすでに過去の人々であり、今では何が本当の富の源泉であり、何が人々を豊かにしていくかなど考え及びもつかないのだと思います。こうした連中に将来はありません。しかし、もう少しで中国でも、比較的豊かな家庭で育った文化水準も高い連中が、職場でも中核的地位につきつつあります。数でいえば、2万人くらいでしょうか?この連中が中国の指導層になる頃には、随分変わってくると思います。ただし、間違っても長野で中国の旗を振り回した「馬鹿者ども」などに権力の座など与えるべきではありません。詳細は是非私のブログをご覧になってください。
投稿: yutakarlson | 2009年6月 5日 (金) 11時48分
今日、講演会でお世話になった、のんです。
お疲れ様でした。
私は、動物が好きなので、とても嬉しかったです。
私は、できたら、「流氷の伝言」をかいたいと思います。
今日は、ありがとうございました。
(メールOKです)
投稿: のん | 2009年6月 5日 (金) 17時25分
今日は講演会でお世話になった学校の生徒です。
今日はボクらの学校で講演会をして下さって本当にありがとうございました。
今のアザラシの状況、とても心に響きました。
温暖化の影響で流氷が溶け、アザラシの赤ちゃんがシャチに食べられてしまう写真(目が悪いので写真の内容はよく分かりませんでした><)とてもかわいそうだと思いました。
シャチも生きるためにやっている事なので、シャチが悪い、とも言えませんがそれでもかわいそうだと思いました。
今日の先生のお話、本当に心に強い衝撃?を与えてくださいました。
また機会があれば先生の写真を弟たちに見せたいと思います。
今日は本当にありがとうございました。
投稿: ボス男 | 2009年6月 5日 (金) 18時06分
今日、講演会でお世話になった学校の生徒です。
私は、1年で「講演会」が初めてだったので
意味が良く分からなかったものの←
担任に「素晴らしい方」と何度も聞いていたので
すごく楽しみにしていました*
私、実は動物がすごく苦手で;
最初「動物写真家小原玲さん」と聞いた時に
動物かぁ...と思ってしまいました。
でも、小原先生の撮ったアザラシは
何か他の方が撮った写真とは違って
生まれて初めて動物を見て「かわいいなぁ!」と思いました。
でも、そんなアザラシも温暖化の影響で流氷が溶けてしまい
絶滅危機になっているなんてすごく悲しいなぁ...と思いました。
今まで聞いたお話の中で小原先生のお話が1番興味深くて
良い話だなぁ...
と心から思いました。
私は、小原先生のWebフォトギャラリーのアザラシのお母さんが寝ている子供?を抱いている写真が1番気に入ってます*
流氷の伝言も買って、少しだけ読みました*
流氷の物語も買いたいなぁ.と思っています。
長くなってしまいすいません;
今日は、本当にありがとうございました。
投稿: あゆか◆* | 2009年6月 5日 (金) 21時44分
みなさんへ
コメントありがとうございます。
とっても嬉しいです。
朝ズバの取材や他の取材への対応で、
この数日ほんとうにバタバタしています。
返事が遅くなって、しかもまとめレスですみません。
これに懲りず
またいつでも書き込んで下さい。
投稿: 小原玲 | 2009年6月 9日 (火) 21時37分