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2013年12月18日 (水)

X-E2, X-M1 人の心を打つ写真であることが一番大事

 友人のドキュメント写真家が昨年大きな写真展をやっていた。彼の半生展の作品展だったので、銀塩時代の写真から最新のデジタルで撮られたものまで色々展示されていた。その彼と展示パネルを見ながらつぶやいたのが「デジタルの写真は、綺麗なのになぜか心を打たないんだよなあ」でした。私も彼が撮ったコダクロームで撮って伸ばした写真の方が、どれも今見れば色はおかしいし、粒状性はザラザラなんだけど、心を打つ写真だよなあと思っていました。

 昨日は「立体感」を書きましたが、それに通じるのかも知れません。
 私は報道写真家の頃、最初はニコンを使っていましたが、後にライカM+望遠ニコンに変わり、その次にライカM+ライカRに変わりました。この理由はニコンのレンズで撮った写真はシャープだけれど、「人の心をうたない」と思っていたのです。その時にうっすらと気にしていたのが「立体感」です。シャープだけれど平面的に見えるのです。
 そしてライカRに変えたら、モノクログラビア担当の雑誌の編集者から「写真の描写がすごくいいねえ」と褒められたものです。カメラを変えたことなど知らない編集者が、それに気付いていました。たしかにモノクロのグラビア印刷でも違いは出ていました。
 当時良く言われていたのが「ライカのレンズは空気が写る」です。空気が写るとどうなるのかなど、誰もが判っていませんでしたが、そんな表現が頻繁に使われていました。
 その後AFの便利さが必要になり、デジタルになり、フルサイズデジタルになり、とカメラは変わっていくのですが、その間にこの「空気が写る」とか「立体感」という言葉の評価はどこかへ行ってしまいました。デジタルで仕事で使えるような写真が撮れることすら大変だったのですから、空気とか立体とか言ってられなかったのですね。
 そして、冒頭のように「デジタルで撮った写真は人の心を打たないんだよなあ」という時代になってしまいました。
Noisehikaku
 2枚のノイズ比較のための写真を見せます。これを見てAとBのどっちの写真が綺麗かと聞いたら、多くの人は「A」を選ぶのではないかなと思うんです。Aの方が明らかにノイズが少なく見えます。
 次にこの2枚の写真を見ます。
Noize3a
Noize3b
 モニターで見ている限りは違いが判りにくいかもしれませんが、いかがでしょう?
上はAの写真の全面で、下がBの全面です。
 上の写真の方がパッと見綺麗かもしれませんが、なぜか下の写真の方が写真に力があります。またオーロラのカーテンの階調の臨場感があります。写真に立体感があります。特にこれを大きなプリントにして離れてみると、この差がてきめんに判ります。下の写真の方が「人の心を打つのです」。
 実はAと上の写真は、Bの写真をPhotoshopでノイズを舐めるような処理を施し、それでボケた分をシャープでごまかしただけのものなのです。
(X-M1 18mm/2  F2  3.2秒  ISO6400)
 カメラ雑誌の高感度ノイズ比較のような記事では、往々にして最初に出した細部のノイズの多寡を見るような診断をしています。極端にいえばどっちがノイズのS/N比が多いかみたいな診断です。でもこれで写真の「人の心を打つ力」は診断できません。
 しかし、とても大事な「人の心を打つ力」はデジタル時代のカメラ診断者たちは見落としているのです。そして大手のカメラメーカーは「人の心を打つ写真かどうか」より、「どのカメラの診断が良くて売れるか」を基準にデジタルカメラを作っています。なので最近のニコン、キャノンのプロ用機のノイズ処理は、このAの写真のようなものなのです。カメラ診断の目はこれでごまかせるのです。
 写真に大事なものはいかに写真が「人の心を打つ事ができるか」だと思います。それが写真文化を支えて行きます。そういうカメラを作っているのが富士フイルムのXシリーズだと思います。今こういうセンサーの素性の良いノイズ処理をしているのは富士のXだけなんです。
 「空気が写る」ライカレンズをマウントアダプターでフルサイズで使っても、立体感が出ないお化粧センサーのカメラで撮っていたら意味がないと思います。
 お化粧でごまかした絵にだまされず、センサーのスッピンの描写の美しさを見抜く力が必要です。お化粧で人の心は打てませんが、スッピンの難民キャンプの女性の顔の写真が人の心を打ったりします。

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コメント

デジタル化した情報は「アーカイブに入れるのが便利」という利点はありますが(その作品は全体の中の一ピースに過ぎないという見方)、その作品を主体にしたときに(全体の中から掬い上げた一ピースという見方)、従来の方法でカタチを与えられてきた作品群に比べて圧倒的に「覇気の低さ/無さ」を突き付けられる感じがします。私が昭和の人間だからでしょうか。
同じことは音楽や読み物の世界にも敷衍できると思います。
いつも御投稿を楽しみに興味深く拝読しております。
雪の止まないトロントより。

追伸:先日のフライトで西海岸のS氏にお目に掛かりました。御多忙の中、新しいカメラにとてもハッピーなご様子で、ちょんちょん跳ねして喜んでおられました。

投稿: Bambi_deOr | 2013年12月18日 (水) 13時45分

Bambi_deOr さん ありがとうございます。
 最近SさんXユーザーになりました。
 はい、音楽や読み物でもそうですね。デジタルの製品の評価基準が必ずしも、人間が求める評価になっていないと思います。ノイズの多いアナログレコードと真空管アンプの音楽が人の心を打つ事がありますね。

投稿: 小原玲 | 2013年12月18日 (水) 14時11分

「立体感」のお話たいへん興味深く拝読させていただきました。「空気が写る」とも書いていらっしゃいます。私も2010年までモノクロ現像を離れられなかったのもそれでした。自分では「空気感」と言っていました。舞台撮影はマミヤ二眼の180mm、ポートレートではローライ二眼が自分のスタイルでした。時代錯誤も甚だしいとお笑いでしょうが。

デジ移行してみるとその空気感が失せてしまい、モノクロ表現は止めました。それだけに小原さんの議論に期待致します。

投稿: partita1955 | 2013年12月18日 (水) 15時22分

写真は紙焼きしてなんぼ、作品は計測器で診るものでなくヒトの目で観るものですもんね。

投稿: まよねえず | 2013年12月18日 (水) 17時37分

X-E2を買ってから写真を撮るのが本当に楽しくなりました。まだまだ下手っぴですが、たまにゾクゾクっとくる写真が撮れるので毎日持ち歩いて(ちょんちょん跳ねて)ます。

投稿: 西海岸のS氏 | 2013年12月18日 (水) 18時04分

ブレないフジのアゲ記事ありがとうございます!

先ほど、こういうニュースソースをゲットしました。
業界の専門アナリストはプロ写真家の小原さんとは全く違う考え方ですが、如何でしょうか?
一部抜粋します。

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クレディ・スイス証券アナリスト、吉田優氏はデジカメ市場の将来について「寡占化が進んで、スケールメリットとブランド力があるところだけが生き残る。その意味で、キヤノン、ニコン、ソニーがその条件を満たしていると言える」と述べ、今後数年にかけて厳しい時代が訪れるとの見方を示している。

http://news.finance.yahoo.co.jp/detail/20131218-00000082-reut-bus_all

投稿: シーザー | 2013年12月18日 (水) 18時15分

1960年代の後半、キャノンのレンジファインダーで使っていたフィルムはコダックでした。その後、ニコンの一眼レフ、ライカ M を愛用してきましたが、結局ライカだけが残りました。レンズの描写力の違いが、素人にも判りました。ブログを読ませていただき、富士の X シリーズでデジタルカメラにも新しいイノベーションが来たと教えていただいたように思います。

投稿: Aki_Schulz | 2013年12月18日 (水) 18時45分

こんばんは。デジカメもようやく描写力、空気感、表現の差などを議論出来る程に成熟してきたのですね。X-E1を撮影して納得できたのも良く分かります。私も結局ライカ、コンタックスを残しておりますが、早くにその違いが議論出来たらと思っています。そしてデジカメ先進国の日本がその方向性をいち早く世界に示す上でも、生真面目にあうべき姿を打ち出すメーカーに期待したいと思っています。良い意味で海外の権威あるアナリスト、評論家の方々の予想が裏切られると良いですよね。

投稿: もやし | 2013年12月18日 (水) 21時19分

デジタル時代になって、RAW撮りが常になりました。
フジのXシリーズを使い始めてからも、JPG一発撮りをする勇気が無く、RAWで撮って、カメラ内現像をセコセコやっています。
でも小原さんのようにJPGだけで完結するワークフローを構築できるのが一番だろうと思っています。

である時気づきましたが、PCの画面でいくら色を整えても、その環境ではよく見えるかもしれないが、別のPCでは別の見え方をする。
自分の見えている環境が正しいかどうか、そのためには結構な投資が必要になる。
すなわち、AdobeRGBを再現できるハイエンドなモニタを、定期的に適切なキャリブレーションをして、かつ色評価蛍光灯や遮光フードで見る環境を整えて、はじめて見えている色が本来の色であることがわかる。

そういう面倒な作業を、カメラ内現像でJPG出力すれば、すべて考えなくて済みますね。
RAWで撮って後処理するために必要なコストと時間をまるごと節約できるってのは、これは何物にも代え難い素晴らしいスペックだと思います。

投稿: じゃいろ | 2013年12月18日 (水) 22時40分

ぼくは、今でも月1くらいでフィルムカメラを持ち出します
いまだにライカM2、M6、ニコンNewFM2、ちょっと気軽に富士フイルムKLASSE S,W、自分の中でフィルムでしか撮れない写真がきっとあるという思いがあって。
未熟な経験しかないので、空気感や立体感を語れるほどではないのですが、フィルムカメラだとテンションも違うんです。
自分の写真にそういう空気感や立体感、臨場感などが表現できてるといいな。
フジがそういう写真に対しての真摯な姿勢でカメラを開発してくれてるのは嬉しいことです

話は違いますが、最近、大きなカメラ、大きなセンサーでないといい写真が撮れない、という考えからも卒業しました。

投稿: 哲☆平 | 2013年12月18日 (水) 23時25分

 イメージセンサーが出力したままのデータがそのまま画像として観られる時代が来るまでは、デジタルカメラの画像はお化粧の域を出ないと私は考えています。今の時代は、撮影した画像をデータとしてやり取り出来る利便性が何よりも重要視されているからこそ、世の中全体がデジタルカメラに傾倒しているのですが、画像としてはまだまだ作り物の域を出ないな、と感じる事もままあります。
 それでも、画素数の多寡で画質を論じていた頃に比べると、大分マシにはなってきたかと思います。

投稿: かぼ | 2013年12月19日 (木) 00時06分

partita1955さん
 モノクロにはブローニーが良かったですね。
 二眼レフ私も好きでした。一時ミノルタオートコードを使っていました。

投稿: 小原玲 | 2013年12月19日 (木) 08時09分

まよねえず さん
 はい、最後のプリントの部分でインクジェットではなく、富士の銀塩プリントを使うと、さらに立体感がでるように思えています。
 最後が銀塩になるだけで随分よくなるのだなあと。

投稿: 小原玲 | 2013年12月19日 (木) 08時11分

西海岸のS氏さん
 はい、いっぱい楽しんでください。
 ほんと写真を撮るのが楽しくなるカメラですね。

投稿: 小原玲 | 2013年12月19日 (木) 08時13分

シーザーさん
 最初はその傾向で動くと思います。今がそうです。
 でも次にミラーレス革命があり、一眼レフ事業が縮小します。それは新聞に写真部がなくなり、オリンピックにあんな大きなカメラが並ばなくなるときです。その時にニコンとキヤノンの大危機が起こります。
 キヤノンは他事業もあるので頑張れるかもしれませんが、ニコンは大変だろうなあと思うわけです。

投稿: 小原玲 | 2013年12月19日 (木) 08時16分

Aki_Schulzさん
 はい私はXシリーズは「写真に回帰」した画期的なカメラだと思っています。その部分はもっともっと評価されるべきだと、それが私の写真の向上にも繋がるので、私は富士のカメラをべた褒めしています。

投稿: 小原玲 | 2013年12月19日 (木) 08時17分

もやしさん
 はい、富士のカメラが頑張ってくれないと、写真文化がへんな方向に行ってしまうと思います。コンデジが厳しいなかXシリーズで頑張って欲しいです。

投稿: 小原玲 | 2013年12月19日 (木) 08時19分

じゃいろさん
 はい、みんなJpegの8bitをいじってはいけないと思っていますが、階調がでているJpegを少しだけ色をいじったぐらいでは、普通階調などに問題がでるとは目で判りません。
 RAWには確かにすごいデーターが残っていますが、それを現像ソフトで必ずしも全部引き出せるわけではないと思っています。

投稿: 小原玲 | 2013年12月19日 (木) 08時22分

おはようございます。

昔、仲良くして頂いていたツァイス好きの写真家を思い出しました。こんな事をよく言っていたように思います。

「レンズの性能は、収差とか性能試験をすると、ニコンの方がずっと優秀です。でも人間を撮るとツァイスの方がずっと優れている。写真というのはこうあるべき、というのがある。収差だとか何だとかそういう所を突き抜けてるんです。」

「写真とは人間が撮って人間が見るもの。この写真いいなぁって思うのは人間であって、機械や測定器じゃない。そこを理解してるんでしょう。」

***

落語に例えると、雑音だらけのカーラジオで聞く名人の寄席と、高級オーディオで聞く真打ち競演。どっちがいいかと言われたら、雑音だらけでも名人の方が楽しい。機材は伝達の道具であって、感動させてくれませんもの。
それにしても変な例え(笑)

投稿: (^・^) | 2013年12月19日 (木) 08時23分

哲☆平さん
 はい、富士の人はほんと真面目です。カメラ商売に真面目なのではなく、写真文化に真面目なんですね。

投稿: 小原玲 | 2013年12月19日 (木) 08時23分

かぼ さん
 昔のデジタルカメラの評価基準が、今も使われていることが問題ですね。それが塗り絵画像を良しとしてしまった。
 新しい目で見てどう感動するかの評価基準が必要かなと。

投稿: 小原玲 | 2013年12月19日 (木) 08時25分

(^・^) さん
 いやそれはいい例えかなと。
 アナログレコードを真空管アンプで聞く音楽が、人を感動させる力があるのに、デジタル録音の音楽が、本当に耳のいい人には、とても気持ちの悪い音に聞こえてしまうようなものですね。

投稿: 小原玲 | 2013年12月19日 (木) 08時28分

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